北川民次展へ。
彼の壁画やメキシコとのつながりくらいは、愛知県民なら知っておくべきだと思う。実は私もよく知らなかったので不勉強であったと反省しているが、名古屋で街なかを散歩していて、あの絵は何だろう、タローオカモトの作品ではなさそうだし・・・そんなふうに見過ごしていた壁画が北川民次の作品だと今回の展覧会で知った。
壁画はパブリックアートの一種で街なかに風景として溶け込んでしまっている。サイズが大きすぎるゆえに空のように感じていたらしい。
戦時中に描かれた作品群には特に心惹かれた。「出征兵士」という絵のなかには赤子を背負った母親も描き込まれている。昭和19年と絵の中には書いてあったので終戦間際の絵のようだ。昭和19年は私の父が生まれた年だからあの赤子は私の父かもしれない、などど想像してみる。
マチエールが重厚で、メキシコの空気も作品のなかには溶け込んでいる感じがする作品が多い。
色彩は日本独特のバタ臭い感じがする。民治氏は学生運動などの社会問題も作品として書いておられるので、ジャーナリスティックな視点もあった画家なのだと知る。氏は美術教育にも力を入れておられたようで、絵本のコピーも手に取ってみることができた。
従軍画家として戦時中は生きた。けれど、表面上はお上に従ったようにみせかけても心はそうではなかったのかしら、と絵本を観ながら思ったりもした。戦時中、苦悩はあったであろうが子どもに希望を与えようとした。その姿勢は素晴らしいと感じた。
昆虫のバッタに自身のを投影して、モチーフにされていた。
どこかユーモラスにも見えるバッタは、自由で何者でもない、氏の少年のような芸術への純粋な魂が投影されているようだ。80歳を過ぎて描かれた断筆の、自画像とパッタの絵は印象的だ。何物でもなかった少年が、世界的に活躍する偉大な芸術家になり、そして最後はまた何者でもない自分に戻る。そのエンドロールの一枚としてふさわしい。
ぜひ足を運んでみて欲しい展覧会です。名古屋市美術館にて2024/9/8迄開催中。
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